“もしかして、ミュージカルやりたかったりする?”ーあの花スタッフが送る「心が叫びたがってるんだ。」を観てきた感想を書き綴るー

“もしかして、ミュージカルやりたかったりする?”

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「あの花の名前を僕達はまだ知らない。」のスタッフが手がける完全新作映画「心が叫びたがってる。」を観てきた。ANIPLEX製作ということもあり、その完成度はここ最近のアニメ映画の中でも群を抜いていた印象だった。

 

【あらすじ】
幼い頃、何気なく発した言葉によって、
家族がバラバラになってしまった少女・成瀬順。

そして突然現れた“玉子の妖精”に、二度と人を傷つけないようお喋りを封印され、言葉を発するとお腹が痛くなるという呪いをかけられる。それ以来トラウマを抱え、心も閉ざし、唯一のコミュニケーション手段は、携帯メールのみとなってしまった。
高校2年生になった順はある日、担任から「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命される。一緒に任命されたのは、全く接点のない3人のクラスメイト。本音を言わない、やる気のない少年・坂上拓実、甲子園を期待されながらヒジの故障で挫折した元エース・田崎大樹、恋に悩むチアリーダー部の優等生・仁藤菜月。彼らもそれぞれ心に傷を持っていた。

「公式サイト」より

 

評価★★★★★(星5つ)

 

今作は約120分(2時間)ものの映画だけあって、登場人物をかなり絞った上で、一人一人が胸に抱えていた「心の中の本音」に焦点を当て、それらを一つずつ丁寧に紐解いては解決していく姿が印象的だった。

 

主人公である「話せなくなった私」の成瀬順。おしゃべりでちょっと妄想癖のある彼女は、小さいころに偶然にも目にしてしまった衝撃的なシーンをうっかり母親に話してしまったことから家庭が崩壊してしまう。それを自分自身のおしゃべりのせいだと思い込んだ瞬間に不思議な玉子に「話せなくなる呪い」をかけられてしまう。

 

【公式トレーラー】

 

言葉の重み

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不思議な玉子から口にチャックをされて以来、人前で言葉を発することができなくなってしまった成瀬順。そんな時担任の先生から突如として、地域ふれあい交流会の実行委員に選出され、実行委員のメンバーである坂上拓実と出会う。

“歌ならお腹が痛くならない”ということに気づかされた成瀬順は、自分の本当の気持ちを歌に乗せて皆んなに、そしてとあるあの人に伝えたいと願う。感情を歌に乗せて、人に伝えたいと願う彼女の想いに思わず胸を打たれてしまう。

 

何よりも、幼少期の悲しい経験から「一度発した言葉は取り戻せない」と考える成瀬順にとって、野球部の後輩から罵声を浴びせられる田崎大樹の一件に対し、思わず叫びだしてしまうシーンはとても心に響くものがあった。

 

また、「言葉にしたら終わってしまう」と考えて関係をうやむやにし続けてきた仁藤菜月、そして自分の本心を発しないように自分を押し殺してきた坂上拓実など、一人ひとりのキャラクターの「言葉」に対する考え方や想いが丁寧に描かれている。

 

本音をさらけ出すことの大切さ

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本作では、「言葉にしなければ伝わらない」というセリフが何度か登場する。

 

《好きになった坂上拓実に想いを伝えたい成瀬順》
《無意識のうちに自分の感情を押し殺し続けてきた坂上拓実》
《言葉にしたら終わってしまうと悩んでいた仁藤菜月》
《腕の怪我でやさぐれ、後輩に厳しくあたる田崎大樹》

 

彼らは知らず知らずのうちに、自分の本音に目を背け、誰かのせいにしたり、本音に気づかないふりをしたりすることで、自分の想いを言葉にすることを避けていた。

 

そんな時に、担任による地域ふれあい交流会でのミュージカル発表の実行委員という役目を任命され(押し付けられ)、クラスを先導してミュージカルの演目をクラス一丸となって作り上げていく中で、段々と自分自身の本音に向き合うことになっていく。

 

クラスの皆んなと一緒にミュージカル

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小さい頃から父親の影響でピアノを習わされた坂上拓実は、ミュージカル用にクラシックの曲を弾きながら、成瀬順が書いたストーリーに歌詞をあてはめていく。DTM研究会というサークル(部活?)に所属していることから、できあがったミュージカル用の曲をDTMで友人に仕上げてもらったようだ。

担任曰く、「多少予算もついてるぞ〜」ということで、衣裳や美術もクラスの皆んなで準備をしていく様子は何だか懐かしく、映画の最中にも関わらず高校時代の自分自身を重ね合わせてとても感慨深く感じてしまった。

だが、地域ふれあい交流会を明日に控えた最後のリハーサル後で、成瀬順は偶然にも坂上拓実と仁藤菜月のやりとりを見てしまい、抑えていた感情が爆発してしまう。そして、翌日に事件が起こる。

ミュージカルの中盤、成瀬順が登場するシーンは本作に散りばめられていた様々な要素が一本の筋のように重なり合っていくように感じられ、感動すること間違い無しの注目シーンだ。

 

「せい」から「おかげ」へ

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「自分のおしゃべりのせい」で、家庭が崩壊してしまったと考えていた成瀬順は、押し殺し続けていた本音を坂上拓実に思い切りぶつける。

 

相手を傷つけることを承知で、思い切り本音で考えられるだけの悪口を浴びせかける。それらの言葉を全て受け止めた後の坂上拓実の言葉で、成瀬順は自分の「せい」ではなく「おかげ」で、人を助けることができたのだと教えられる。

 

発した言葉により、相手から嫌われたり、蔑まされたりすることもある一方、互いにより深く相手のことを理解するためにぶつける本音がプラスの効果を生むこともある。

 

一番大切なことは、もしかしたら同じ目標や志を持つ仲間を持ち、その仲間同士で本音をぶつけ合うことなのかもしれないと感じた。

いずれにせよ、「言葉」や「本音」、「恋愛」や「友情」に関して、青春時代特有のもどかしさだったり、切なさだったりといった要素がふんだんに散りばめられている本作は一見の価値があると思う。

 

《おまけ》

【イントロダクション】

名曲と共に、描かれる物語。再び日本を感動の渦に―。
2013年、アニメファンの枠を超え、心揺さぶる感動作として
興行収入10億円を突破する大ヒットを記録した『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』。
テレビアニメオリジナル作品としては歴代2位の記録を打ち立て、
実写ドラマ化も決定するなど、今でも日本中に“あの花現象”を巻き起こしている。

そして今秋、名実ともにヒットメーカーとなった監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、
キャラクターデザイン・田中将賀の3人が結集し、再び秩父を舞台にした
完全オリジナルストーリーの青春群像劇『心が叫びたがってるんだ。』が誕生する。

心の傷、葛藤、誰かを想う切なさー。
人と人との絆を描いた物語と、誰もが一度は聴いた事のある「悲愴」や
「Over the Rainbow」「Around The World」などの名曲の数々が、
きっとあなたの心を感動でいっぱいにしてくれる。

「公式サイト」より

 

 

ちなみに、今作の聖地はあの花同様秩父方面とのこと。聖地巡礼に行ったというブログもあったので、興味のある方は是非とも参照してみてほしい。

「心が叫びたがってるんだ。(ここさけ)」の聖地巡礼で秩父市へいってきました

 

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