「人民元ショック」による世界同時株安についてーブラックマンデーの再来ー
“世界同時株安の再来”
2015.8.24「人民元ショック」と呼ばれる中国通貨切り下げに端を発する世界同時株安が発生した。8.11と12の2日間に渡り、中国人民銀行が人民元の対ドル基準値を大幅に引き下げ、人民元が大幅安となった。この時点ではTOPIXや日経平均、NYDOW(ニューヨークダウ)の反応は冷ややかだったが、徐々に上値を切り下げていく展開となった。
そこから数日は人民元の通貨切り下げを市場が織り込みつつあったのか、何事もなかったかのように元の水準にまで価格を戻していたのだが、2015.8.24に日経平均株価やNYDOW等が軒並み1000ポイントほども大きく値下がりするという世界同時株安が突如として発生したのだった。
ドル円も先週時点で124円だったのが、翌月曜日にはなんと116円に急落するといった驚愕の値動きで大きなニュースとなっていた。さらには、同日のNYDOWも雪崩れのように崩れていく様子が見て取れる。
ウォールストリートジャーナルに世界同時株安に関する記事が掲載されていたので、参考に読んでみたところ、「警告は十分にあった」と書かれていた。
【WSJ】「世界同時株安、警告は十分にあった」
(以下引用)
・投資家は「警告などなかった」とは言えない。
・投資家はリスクを取りすぎで、株式を過大評価する一方、信用リスクを過小評価していると数カ月前から警告していたのは、FRB、国際通貨基金(IMF)、国際金融協会(IIF)の3機関もあった。これら3機関は市場の暴落をちゃんと警戒していたのだ。
・IMFは14年後半にも、バリュエーション(株価評価)が「フロス(泡)」の様相を呈し、世界経済は「債券・株式・為替市場の変動が危険なほど高まった場合」に深刻な影響をますます受けやすくなっているため、株式市場が調整するリスクは高まっていると警告した。IMFが四半期ごとに発表する世界経済見通しはこの数年間で一段と悪化している。IMF金融資本市場局のビニャルス局長は、金融市場のリスクテイクの状況は2006年とよく似ていると警戒感を示し、世界経済が金融危機前夜を想起させる状態にあるのかどうか問題を提起した。
要するに、「バブル相場」に似た状況であったことをIMFは事前に気づいており、中国経済の低迷に関する示唆やバリュエーションが明らかに基準値を超えていたということのようだ。確かに、2008年に発生したリーマンショックから長く続いた大規模な株安・円高の状況から一転、アベノミクスの効果も相まってか、4年近くに及ぶ上昇相場が到来していた。
ドル円だけを見ても、あっという間に100円の水準を突破し、110円を突破。その後、あれよあれよという間に125円にまで値を戻すという荒技をこなしていった。時を同じくして、日経平均株価も20000円を突破するというような「リスク・オン」の状態が長く続き、投資家全体の中でも楽観的な考え方が広く浸透していたように感じる。
これもひとえに、アメリカによる利上げ期待が相場全体のムードを高めていたのだが、今回の人民元ショックもとい中国経済の低迷に伴う世界的な経済の減速によって利上げの見送りが検討される可能性も出てきた。仮に年内の利上げを実施しても、そこから数ヶ月間は大きく売り浴びせを受けることも考えられる。実際に、1987年・1994年・1999年の過去3回利上げをされた後から半年間ほどは為替も株価も大きく値を下げたという事実もある。2004年の利上げでは利上げ後でも大きく値を下げてはいないとのことだが、今回もそれが当てはまるかどうかは不明だろう。
【三井住友アセットマネジメント】(以下引用)
・米国の金融引き締めと日本の金融緩和で必ずしもドル高・円安にはならなかった。
・日米の株価は、米国の利上げ前に上昇し、利上げ後に下落するという傾向にあった。
・しかしながら値動きの検証には、各時期の政治情勢や経済環境の確認も必要。
・87年の利上げ局面では通貨に関する国際合意や金融ショックが相場の方向性を主導。
・94年の利上げ局面では米国の通商政策や連続利上げが相場に大きく影響。
・99年の利上げ局面では米国の連続利上げと日本の景気回復が相場の材料に。
・04年の利上げ局面では日米の通貨政策がドル円相場に大きく影響。
・同局面における日米株価は米連続利上げへの警戒から振れ幅の大きい展開に。
・金融ショック、国際通貨合意、日米通貨政策、米連続利上げが過去の相場変動要因。
・米利上げ以上に「政治情勢」や「経済環境」が相場に大きな影響を与えることも。
・今回は国際的な通貨合意もなく日米金融政策の違いで緩やかなドル高・円安を予想。
・日米株価は米利上げ前の不安定な動きを経て利上げ後は上昇基調に戻ろう。
アメリカによる利上げが年内に強行されるとしても、賢明な投資家は利上げ発表と同時に為替や株価が大きく値を下げる可能性を鑑みて、事前に利食いをしているかショートポジションを積み上げていることが考えられる。深追いはしないように注意して、今後も中国情勢に目を向けながら今後の方向性を見極める必要があるように感じる。
いずれにせよ、上昇し続ける相場はなく、下落し続ける相場もない。どこかのタイミングで上がったり下がったりを繰り返しながら、一定の周期ごとに上昇基調から下落基調、下落基調から上昇基調へと変化を繰り返すのが相場というものだ。ただし、ロング(買い)で上昇するスピードの2倍以上のスピードで下落していくのがショート(売り)の怖さだということを改めて実感する歴史的な事件だったように感じる。