70歳のおじいちゃんが経験を活かして社会復帰する話ー映画「マイインターン(原題:THE INTERN)」が「プラダを着た悪魔」に匹敵するクオリティだったー
“正しい行いは迷わずやれ”
妻に先立たれた70歳のおじいちゃんが、満たされない心を埋めるために様々な取り組みに挑戦するも、思ったように満足できない日々を過ごす。そんな時、偶然にもスーパーの張り紙にあった高齢者を対象としたインターンの募集を見かけて、自ら紹介ビデオを撮影して応募してみると、、、
主人公は名優「ロバート・デ・ニーロ」と女優「アン・ハサウェイ」という2大キャストで送られる「マイインターン」は、普通のサクセスストーリーでも、ラブロマンスでも、SFでもない“どこかにありそうで、ちょっと特別な日常の話”という印象だった。
【チェック】
ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイというオスカー俳優が共演を果たしたヒューマンドラマ。年齢・性別・地位も違う男女が出会い、徐々に友情を育んでいく過程を描く。メガホンを取るのは『ハート・オブ・ウーマン』『恋するベーカリー』などで知られるナンシー・マイヤーズ監督。高級ブランドからカジュアルスタイルまで網羅したファッションはもとより、女性にエールを送る物語に夢中になる。
【ストーリー】
ジュールズ(アン・ハサウェイ)は、ファッションサイトを経営・管理する会社のCEOとして充実した日々を過ごしていた。仕事と家庭を両立するパーフェクトな女性像そのものの彼女はまさに勝ち組だったが、ある日、試練が訪れる。同じころ、シニアインターンとして、40歳も年上のベン(ロバート・デ・ニーロ)がジュールズの会社に来ることになり……。
評価★★★★☆(星4)
《Youtubeトレーラー》
前作「ミランダ」の立場としての「アン・ハサウェイ」
前作では、メリル・ストリープ演じるミランダという仕事に厳しい(むしろ理不尽な)上司に振り回されるアン・ハサウェイが、今作では反対に仕事に厳しい上司となって帰ってきた。ミランダとの違いは、仕事に対してひたむきで、同僚には優しく、特に自分に厳しいというスタンスであること。
自宅のキッチンで服を試着して一つ一つコメントして紹介していくスタイルがウケ、会社を設立したアン・ハサウェイ演じる主人公のジョールズは、急激に成長していく会社組織と膨大な仕事量に懸命に取り組むも、どんどん遅れが発生しているような日々に頭を悩ます。
「君には上司が必要だ。外部からCEOを呼んで、僕らの仕事を楽にしよう」
そんな提案を受け、ショックと同時に深い悲しみを感じる彼女の気持ちは映画の画面を通してヒシヒシと伝わってくる。
それでも、会社は動いている。膨大な仕事量をこなすため、誰よりも遅くまで仕事をする。商品の梱包をチェックするため、自ら商品を注文し、問題点を見つければ自ら倉庫に出向き、梱包方法を指導する。そういった仕事に対するひたむきさや本気さはまさに元上司に通ずるものを感じる(作品的なつながりはないが…)。
経験を活かしつつも、あくまで自然に補佐する「ロバート・デ・ニーロ」
街で見かけた高齢者の再雇用(正しくは6週間のインターン)に、生きがいを探していたロバート・デ・ニーロ演じるベンはピンと来た様子で、スーツを身につけ、髪型を整えて、自らの手で自己紹介ビデオを撮って大手ファッションサイトに応募する。
一見、“可愛いおじいちゃん”のように見える彼は、元々電話帳の印刷会社で部長職をこなしていたという経歴の持ち主。
経歴や自己紹介ビデオが功を奏し、応募した“シニア”インターンに採用されることになった彼の配属先は、社内でもキツいと噂のジョールズの所属だった。
望めば転属も可能と言われていた彼だが、「問題ない」と言って彼女の所属を希望する。
初めのうちはジョールズもシニアインターン(70歳のおじいちゃん)に対し、「任せる仕事がない」と言って心を開かなかったが、ベンは目の前にある彼女の障壁をごく自然に、ひとつひとつ丁寧に取り除いていくのだった。
経験に基づく「機知と行動」
シニアインターンであるベンは、ジョールズの抱える問題をつぶさに見極めながら、目の前にある課題を潰していく。恐らくこれまでの経験からくる直感に従い、時に機知に富んだ行動で対処していく様は「さすが長い現場経験を積んだだけある!」と納得させられるほど秀逸だ。
もちろん、現実社会ではベンのような知的な人格者は滅多にいないが、反対に「こんな人がいたら会社組織も少しは変わっていくのかもしれない」と思わせるようなキャラクターのように思える。
必要以上のことは口にせず、不愉快な自己主張をせず、とにかく辛抱強くタイミングを待てる姿勢は見習うべき価値ある行為だろう。
メインキャラクターにだけスポット
作中ではジョールズとベンの掛け合いに加え、ジョールズの家族や会社の同僚達を中心に話が進行する。ジョールズが会うCEO候補などは顔を見せることもない。単に、これは「メインキャラクター」にだけスポットを当てることで、物語をシンプルかつスムーズに観客の頭に流し込むことに成功しているのだろう。
リアリティを追求しすぎて、物語の核心以外の部分を映像として映し出してなんだかちぐはぐな印象を受けてしまう映画が多いなか、不要なシーンは一切撮らないという姿勢は心地良ささえ感じる。
周りに目を向けることの大切さ
ベンは「みんなのおじさん」という立ち位置で、同僚の恋の悩み、家の悩みや仕事の悩みを解決する。まさしく「メンター」的な役割を担っている。的確な助言を与えるためには、全体を見渡せる心の余裕と積極性が必要なのだろう。
特に、「ハンカチは人に貸すために持つんだ」というベンのセリフには胸がえぐられるような感動を覚える。仕事だけでなく、生きるということは「困っている誰かのために何ができるのか」という視点こそが大切なのだと気づかされる。
難しいのは、ジョールズの夫による不貞行為に対し、それをジョールズに伝えるべきか否かという選択に迫られるベンは、「どちらをとるのが“正しい行い”なのか」という点だ。不用意なことを言って、ボスを傷つけるのか、あえて黙っていることでボスの夫婦の関係性を保たせるのか、大きな悩みを抱える姿はとても印象深かった。
是非とも「マイインターン」を観て、働く30代女性の葛藤や高齢者によるシニアインターン生がボスや同僚に対し、どのような影響を与えるのか等楽しみながら観て欲しい。