一言シリーズー東京オリンピックのエンブレム問題とデザインの在り方について(インスピレーションとイミテーションの違いは認識しないといけないかもしれないね)

“東京オリンピックのエンブレムを取り下げる”

office-581131_1280

アートディレクター・デザイナーである佐野研二郎氏が発表した2020年に開催される東京オリンピックのエンブレムについて連日連夜ニュースに取り上げられている。この問題は、「平成27年7月24日 東京オリンピックのエンブレム発表」に端を発する。
そこからアメリカのデザイナーであるベン・ザラコー氏が自身の製作したエンブレムと酷似していることを主張したことから、話は悪化の方向へと進んで行く。

そして、遂には佐野研二郎氏が発表した東京オリンピックのエンブレムは取り下げとなり、世間でも大きなニュースとなっている。その上、海外ブログからの写真転用問題や他作品の盗用といった形で、模倣・盗用疑惑のかかった作品の数々が芋づる式でニュースやインターネットで公開されている。

東京オリンピックのエンブレム問題の根底は「佐野研二郎氏がベン・ザラコー氏のデザインを盗用したのかどうか」という部分。だが、それ以上に僕は「デザイナーとしてのプライドはあるのか」と感じた。デザイナーを目指すような人は、ほとんどが“新しい価値を創造したい”というような気持ちを持っているのだと思っていた。他の人の優れた作品に触れ、「負けてたまるか!」とか「こういった表現方法もあるのか!」といった刺激を受けることはあっても、「あの時見た作品をちょっと真似して仕事終わらせちゃえ!」といった思考になることは一流のデザイナーとして在るべき姿勢とは到底考えられない。

今は多くの情報がインターネットを介して手に入ってしまう。それこそ海外デザイナーによるデザインであったり、優れた写真であったりが検索一つで簡単に見つけられる。その上、IllustratorやPhotoshopで加工をすることで、あたかも自身の作品であるかのように編集することも容易にできる。そうした手段で発表した作品に対して、デザイナー本人は納得がいくのだろうかと考えると甚だ疑問しか残らない。

他の人の素晴らしい作品に触れ、インスピレーションを受けることで自分自身のスキルや感性を高め、新しい価値ある作品として昇華させるのは理解できるし、賞賛に値すべきだと思う。

だが、触れた作品の一部を改変したり、転用・盗用するのはただの模倣、すなわちイミテーションに過ぎないため、デザイナーとしてのスキルも感性も高まらないばかりか、目指していた頃の自分に嘘をつくことになる。

真実はどうあれ、少なくとも東京オリンピックという国際的にも大きな注目を浴びる大イベントで使用されるエンブレムに関して、イミテーションであると類推されるようなデザインを公開するには、もう一段慎重な選考方法も視野に入れる必要があるのだろう。

一番悲しいことは、デザインのプロと呼ばれるような人の中にも、やはり転用・盗用をしている人がいることがニュースやインターネットを通して、日本国内のみならず全世界においても公の事実となったということに他ならない。IllustratorやPhotoshopを始め、様々な優れたツールが身近に溢れ、誰もが簡単にデザインを製作し、全世界に向けて公開することができるからこそ、「プロのデザイナーとしての心構え」を持った人にこそ新しいエンブレムの製作を担ってほしいと心から思う。

 

あわせて読みたい